夏池篤/atsushi natsuike

「From Printer」 2010
プリンター部品、鉄、紙コップ、振動モーター、IC

 かく多くの電化製品が山のように捨てられていく昨今であるが、とりわけ消費期限の短い情報関連機器においてその流れはとどまるところを知らない。当方もpcからの出力ポートの無くなったRS232C仕様のモノクロプリンターは処分せざるを得なくなった。グーテンベルグ以来の印刷媒体とデジタル表示の仲立ちを請け負うこの機械はいつまで必要とされるのだろうか。文字という意志伝達のための記号をひたすら印字するために統率されてきた部品を、アートにおける意志伝達のための部品として陽のあたるステージに上げてみた。


 

「存在」 2009
アルミニウム、MP3、アンプ、スピーカー

 内臓の一部を拡大したような形態の作品はアルミニウムによって鋳造されており、中からかすかに心臓音が流れる。それは、自分を始めとし、男性、女性、若者、老人、動物といったものから録音採取したものである。自らの心臓音が作品の中から聞こえると、そこには原始的な生命体そのものになった自分が横たわっているようである。動くことも思考することもなく、ひたすら血液を全身に送り続ける音だけがするとき、人も動物も植物さえもすべてが等価となり人間とは何かということを改めて考えさせられる。
 壁面には、様々な国の出生と死亡のタイミングに合わせ点灯(出生に合わせた赤色)、消灯(死亡に合わせた青色)を繰り返すLED(発光ダイオード)を使った作品LIFE CLOCKシリーズを配した。ここには尊厳をもった個としての人間ではなく、数値として捉えられる人類が表現されている。そこには国ごとの発光の頻度の歴然とした差を見ることができ、単に生物学的な寿命とは別の様々な要素が反映されていることが推測できる。


 

「いのちのかたち」 2007
アルミニウム、LED、振動スイッチ 等

 人間が手に取り心地よいと感じるかたちのひとつに卵形がある。人類は卵から生まれてきたわけではないが、鳥類の産んだその形の中には生命が存在し細胞分裂を繰り返した後赤ちゃんが誕生することは、経験的に知っている。それゆえに、卵形を見た瞬間、手に取ったその時、たとえそれが形だけのものであったとしても、そこにあたかも生命が内包されているような錯覚に陥りぬくもりを感じる。ところがそのような形がわずかに変形したものでその卵のもつイメージとまったく相反する感覚を我々に呼び覚ますものがある。例えば弾丸、砲弾といった人間の命を奪う死のイメージに結びついたものである。今回は、卵形の持つ二面性に焦点をあてた。床面に無造作に置かれた10個の多様な卵形の作品は鑑賞者が自由に揺らしたり、転がしたりすることができる。そのとき中にある振動スイッチが揺れに伴いon-offし、青と赤のLEDが発光する。その点滅と発光色による変化は、見る人の心の在りようによって相反する状況や感情を想起させることになるのである。それは生と死、怒と無関心、喧騒と静寂、活気と停滞、戦争と平和といったものであろうか。
 今回のシリーズでは、さらに上方に紙飛行機10機を円環状に吊るして並べた。幼年期に紙を折り飛ばした記憶は殆どの人が持っているのではないか。そしてそこには各人の紙飛行機をめぐるノスタルジックな思い出があるはずである。今回はこの紙に代えて有機ELシートを使用し、IC(半導体集積回路)で制御することで10台の紙飛行機が順次発光し、高速で飛行するかのように展示した。そこには幼年期のゆったりと空を飛ぶ紙飛行機の面影は無く、例えるなら高速で飛来するアメリカの偵察ジェット機のステルスを思い起こさせるものである。ここでは郷愁の中にあるのんびりとした紙飛行機の記憶と、テクノロジーにより情報化された同一の形象は鑑賞者の感覚を宙吊りにし、予定調和的な鑑賞における了解を排し、見るものに新たなビジョンを提案するものである。


 

1980 愛知県立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
1985 第 17 回現代日本美術展 [ 東京都美術館 ]
1985・86・89・91・93・94・96・97・00・02・04・07・09・11
個展 [ ギャラリー山口・京二画廊・ときわ画廊・なびす画廊・ギャラリー葉音・アートカゲヤマ画廊・秋野不矩美術館等 ]
1989~93 A-Value 展IIー VI[ 静岡県立美術館 ]
1994 遍在する波動展 [ マニラメトロポリタン美術館 ]
1999 芝山野外アート展 '99[ 芝山仁王尊観音寺周辺及び芝山公園・千葉 ]
2002 Contemporary Art & Design Works[Suan Dusit gallery・Thailand]
2005 日本タイ彫刻シンポジュウム in Chiang Mai < 企画・参加 >[ チェンマイ大学美術ギャラリー ]
Burg Namedy-Kunst im Park 2005[Andernach/Germany]
2007,2008 静岡アートドキュメン< 企画/参加 >[ 静岡市青葉公園 ],[ 駿府公園 ] その他
2010 日泰交流展 [ ギャラリー CAVE]
その他